草加で20年続くお店のオーナー関野さんは、デザインもできる経営者思考の人でした
- 2020年9月2日
- 関野 博規
アジアのレストランに迷い込んだのかと錯覚するような佇まいのお店 TRIP (トリップ)は、獨協大学前駅から歩いてすぐの場所にあります。ホテルのフレンチで長年働いていた経験を持つオーナーシェフの関野さんが、様々なアレンジ料理を出している遊び心が詰まったお店です。20年もの間、どんな工夫をしながらお店を続けてきたのか、お話を伺ってみました。
高校生の頃から、サラリーマンにはなりたくないと思っていた
高校の時から、いわゆるサラリーマンにはなりたくないって思っていました。その頃に思っていたサラリーマンとは「スーツを着て満員電車で通勤している人」というイメージでした。
じゃあサラリーマンをやらないのなら何をすればいいのかって考えた時、お店をやるのかな?お店をやるのなら料理かな?とぼんやり思っていたんですよね。家でちょっとした料理を作るのも好きだったし、そもそも食べることも好きだったので。
今、考えればお店の他にも、サラリーマンっぽくない仕事があったなとは思いますが、高校生だった当時は、起業とかフリーランスという方法があるってこと自体よくわかっていなかったんですよね。
それで、高校を卒業して料理の専門学校へ行き、銀座のホテルでフレンチを6〜7年、イタリアンで1〜 2年、働いた後、自分のお店を持つことになりました。
サーフィンで、アトピーが劇的に治った
ホテルで働いていた頃、アトピーが酷くなっていた時期があったんです。
ホテルの厨房の仕事は、何年か経験を積んで一通りの仕事を覚えるようになってきたら、それぞれグループに分かれて担当していくんですよ。自分はその当時、ソースや付け合わせを作るグループにいたのですが、人に仕事を任せることができなかったんですよね。「全部自分でやる」という感じになって、一人でなんでもやろうとしてしまっていました。
それが影響したのか、していないのかは、分からないけれど、その時アトピーの症状が酷くなっていました。本当にカサカサで、周りからも気の毒に思われるくらい。
そんな時、たまたま知り合いの実家が九十九里に施設を持っていたということもあり、サーフィンに誘われていました。それでよく海に行くようになったら、劇的にアトピーが治ったんですよ。聞くところによるとアトピーには海水療法あるらしく、海がアトピーにもいいらしいです。実際に気持ちよかったし、楽しかったんですよね。一概にはいえないですけど、自分にとっては海水療法が合っていたみたいです。
それで、サーフィンにハマってしまって、ホテルの仕事が休みの日は、サーフィン行かなきゃ!って感じで、九十九里だけでなく、バリ島など海外の海にも行っていました。
たまたま草加の物件を紹介されてお店を開くことに
サーフィンに行くようになって、湘南に住んでいた時期がありました。当時はそのエリアでお店をやりたくて、辻堂や茅ヶ崎で物件を探していたのですが、なかなか物件がありませんでした。
草加にお店を出すことになったのは、当時の奥さんの地元が草加だったからです。元奥さんの母親から物件が空いたという情報があり、何かやらないか?と誘われて、やることにしました。
長年フレンチをやっていましたが、当時はフレンチレストランと言ったらコースで出てくるような、かしこまったお店しかなかったんですよ。自分は、そうではないカジュアルなお店をやりたいなと。当時住んでいた湘南のエリアで良く飲んでいたお店に、お酒も料理も楽しめるようなお店がいくつかあったのですが、そんなお店にしたいと思っていました。
お店の雰囲気は、サーフィンで行っていたバリ島のような南国リゾートをイメージしました。でもオープンした当初は、パスタなどイタリアンをメインに出していたんですよ。そこから、だんだんエスニックや、昔やっていたフレンチの要素を取り入れたりしてみています。だから、どんなお店なの?って聞かれても説明に困るんですよね。笑
無意識だったけれどターゲットを決めてお店を始めた
当時、草加には、いわゆるバーみたいなところって「カントリー・モア」や「サファイア」くらいしかなかったんですよね。それで、若い人の中には、そこに行ってみたいけど、いきなり行くのは抵抗がある。という人たちがいたと思うんですよ。
そういった本格的なバーでは、例えばメニューに「マティーニ」と書かれていても、中に何が入っているのか分からないってことがあるじゃないですか。なので、うちではそのカクテルの中に入っているものをメニューに書いていました。そうやって、ここに来て勉強してから本格的なバーで楽しんでもらえればと思って。
特にその頃は極端だったんですよ。チェーン店と本格的なバーの中間となるようなお店がなかったんですよね。今ではチェーン店の居酒屋でもカクテルや多国籍な料理を出しているところもあるけれど、当時のチェーン店の居酒屋は、ガード下の飲み屋みたいなメニューを出すようなところしかなかったんですよね。
「チェーン店の居酒屋には行きたくないけれど、いきなりバーには行けない人がお勉強するお店」みたいなコンセプトはありました。今で言うとターゲットを絞っていたということになるのかもしれませんが、当時は、無意識にやっていましたね。
イベントを企画していたのは、一緒に遊びたかったから
以前は、ライブやハロウィンなどのイベントをはじめ、スノボツアーみたいなお店の外でのイベントも、よく企画していました。当時は、純粋にお客さんと遊びたかったんですよね。
お客さんと楽しみたい!と思ってイベントを企画すると、イベントをきっかけに繋がっていなかったお客さん同士が自然に繋がるので、その人たち同士でまたお店に来てくれることもありました。そういった効果も、少しは期待していたかもしれません。
でも一番の動機は、せっかく仲良くなったから今度遊びに行かない?というノリでした。
当時は、自分と同世代のお客さんが多かったので、お客さんとすぐに仲良くなっていたんですよね。でも自分はお店をやっているので、なかなかみんなと遊びに行くことができないじゃないですか。だからどこか行きたいなって思ったら、お客さんを巻き込んでイベントにしてしまおう!という感じでした。
みんな仲間みたいな感じでしたね。草加市で毎年やっている「ふささら祭り」に出店した時も、告知するとお店のお客さんがたくさん来てくれて、そのまま売り子みたいな感じになっていました。TRIP (トリップ)の屋台では、もう誰がスタッフで誰がお客さんなのか分からないような感じになっていたと思います。笑
これからは「人」にお客さんがついてくる時代なんじゃないか
その当時の人たちとは、それぞれ子供ができたりして、以前ほど頻繁には会えていないですね。
草加の個人店も最近は、雰囲気の良いお店も増えているし、チェーン店でも色々な料理やお酒を出すようになってきたので、オープン当初のようなコンセプトという訳にはいかなくなっています。
その中で、どうやってお客さんを維持していくか?と考えると、SNSを使ってたくさん発信し、どれだけたくさんの人に見てもらえるかが、大事だと感じています。以前は全く意識していなかったのですが、今は、マーケティングも大事だと思っています。
YouTubeもやろうと思っているんですよ。
今後は、お店の雰囲気や料理だけにお客さんがついてくると言うよりは、それをやっている「人」についてくる時代なんじゃないかと思うんですよね。
前から料理教室をやっているので、それもコンテンツ化していきたいし、オンラインで展開することもできるんじゃないかと思っています。
以前、経営者のお客さんに頼まれて、2店舗ほど飲食店のコンサルをやっていた時があるんですけど、その時はメニューや内装などを良くすることを提案していたんですね。でも、これからのコンサルは、実店舗以外でのコンテンツをどうやって作っていくか?ということにも目を向けなければいけないって思っています。
今の時代って、不安定で何が起こるか分からないじゃないですか。社会がどうなっても大丈夫な仕組みを作っておくことって大事だと思うんですよね。
飲食店だからお店のことだけをやっていればいいのではなく、その先にできることを、まずは自分で色々試してから、他の飲食店の人たちにもアドバイスできたらいいなって思っています。
料理の道を進んできた関野さんですが、黒板のイラストやフライヤーなど、店のデザインを全て一人で手掛けているそう。お話を聞いていると、料理人から連想される職人のイメージではなく、まるで経営者のようだなと感じました。今後も、その人柄を活かしてどのような活動の場を広げていくのか?とても楽しみにしています。
インタビュー場所
トリップ(TRIP) 〒340-0011 埼玉県草加市栄町3丁目9−8
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