続けるために何かをしてきたわけではなく、その都度、変化に対応していたら40年経っていました。
- 2021年1月14日
- 影山保行
草加駅前の老舗のバー「サファイア」は、落ち着く店内でアメリカのような雰囲気が作り込んであり、お酒はもちろん、タコスをはじめとした料理の種類も多く、昔からずっと通い続けるファンも多いバーです。30年間、バーを経営してきた影山さんに、お店を喫茶店からバーに変更した経緯や、草加のお客さんのこと、バーでの30年間を振り返って感じることなどを、お聞きしました。
喫茶店からバーへ
もともと、ここは店舗付き住宅として建てられていました。父がこの建物を購入した時に、一階を父が経営する中華料理店として営業し、二階を知り合いの不動産屋さんに店舗として貸していました。
昭和40年代なので、50年くらい前の話です。当時、二階は「サファイア」という喫茶店を開いていました。お店の業態やオーナーが変わった今でも、その時の店名を変えずに使っているんです。
自分が19歳の時にその喫茶店で働き始めました。2年〜3年、修行というか一緒に働かせてもらってからオーナーになったのですが、今思えば、ずいぶん若造が店主をやっていたんだなと思いますね(笑)
喫茶店として営業を続け、ちょうど30歳を過ぎた頃に、バーへとお店の業態を変えました。といっても一度にガラリと変えたのではなく、はじめの二年間くらいはランチもやりつつ夜はお酒に力をいれるという形でのスタートでした。
バーにしようと思ったのは、当時、喫茶店という業態では売り上げに限界を感じていたからです。その時は既に結婚していて、子供もまだ小さかったので。
作りたいバーのイメージはあった
バーとして営業するにあたり、店の内装は、徐々に変えていきました。喫茶店の頃は、壁には壁紙が貼られていて、今のような木で囲まれたような雰囲気ではありませんでした。ただ、なんとなく目指したいイメージはあったので、自分の手で少しずつ変えていったんです。
内装を変えている途中、知り合いの紹介で、カントリーモアにも行くようになりました。自分が作りたいものと似ていたので、嗜好がちょっと似ているのかもしれないなって感じました。自分は飲食店を経営している割には、あまり外に飲みにいくようなことはしないのですが、それから(カントリーモアの)大田さんとはずっと交流があります。
大工やDIYの経験はほとんどなかったので、今のような内装を一人で作ったことに驚かれたりしますが、やはりきっかけがないとできないですし、情熱というか「これが作りたい」という思いがあれば、できることなんだと思います。おそらく大田さんもそうだったんじゃないかと。
草加のお客さんについて
お客さんは、みんな面白い人だなって思います。自分もそうですが、みんなが常識だと思っていることがそうじゃないって気づかされることがたくさんあります。それぞれ皆さん個性的だと思います。
お客さんの年齢の幅は、以前より広がりました。バーとして営業を始めた30代の頃は、40代や50代のお客さんは、ほとんどいなかったのですが、今はその層が多い印象です。オーナーの自分と共に、お客さんも歳を重ねていますよね。
最近は、若い頃からずっと来てくれている方が、息子さんを連れてきてくれたりします。
面白いなと思うのが、昔より今の若い人達の方がマナーがしっかりしている人が多いことです。
例えば、オーダーされたものを持っていくと、その都度「ありがとうございます」って言ってくれたりする。個人的には、ちょっと丁寧過ぎるんじゃないかって感じてしまう時もあるけれど、以前は、そんなことを言う人はいなかった。
一概には言えないですが、昔は「お客は偉い」というような風潮があったんじゃないかと思いますが、今はそういうことをあまり感じないですね。もちろん全員ではないけれど、比較的そう思います。しっかりしているなと。
なので、昔よく「今の若い奴は。」みたいなこと言う人がいたけれど、逆にそんなこと言えないなって。
最近少し気になったこと
最近、若いお客さんから、お勘定の時「お会計ください」って言われます。初めて聞いた時、なんだか違和感があったんですよね。「お会計してください」じゃないのかな?って。
でも若い人の多くが「お会計ください」って言うんですよ。それが気になって、ある時「ちょっと質問していいですか?」って尋ねてみて、どうして「お会計ください」なのか聞いてみたんですよ。
そうしたら『「お会計」とか「チェック」は、上から目線の言葉だから、丁寧な「ください」という言い方にする』というようなことでした。そうなんだ。と思いつつ、やっぱり自分の中では違和感が残るので、そこは世代を感じてしまいました。その言い方に違和感を覚える世代と、違和感を感じない世代がいるような気がします。
長くやっていると時代の移り変わりで、そうやってお客さんの応対の仕方も変わってくるのが面白いですね。この先も、そんな違いを感じたりしながらやっていくんだろうなって思います。
今はやりたいことが増えたかもしれない
自分が若かった頃ですか?今考えると情けないほど何も興味がない子供でしたね。
学生の頃も、勉強もしないし、何もしたくないって思っていました。部活もすぐにやめてしまって。
何で、もっとやらなかったんだろう?って今は思うけれど、でも当時はそういうことはやりたくないって思っていました。
勉強でも何でもそうですけど、できる時にやっておけばよかったなって。
例えば、英語だって勉強できるときにしておけば、もっと外国人のお客さんとのコミュニケーションもスムーズだっただろうなと思いますね。
でもその反動なのか、人生の終盤に入ってきているからか、最近はやっておきたいことが増えてきたかもしれない。例えば、昔からやりたいと思って、一度挫折したギターも始めたりしています。何を目指すとか、特にどこかで披露するというわけではないのですが、たまに閉店時間の後、気の合うお客さんとだけで楽しんでいます。
人間って本来なら食べて寝ていれば満足なはずなのに、みんな上を目指そうとしますよね。でも、上には上がいるんだからキリがない。上にいけないことで不満が溜まるくらいなら、自分や自分の周りの人が楽しむことで満足できればいいかなと思っています。
30年間続けて思うこと
お店には感謝しています。この歳になるまでやれることがあってよかったなと。
まあね。色々あったけれど、ここまでお店をできたのは嬉しいです。自分でやっているんだけど、やらせてもらっていたような気もします。自分も生活ができるし、ある程度お客さんにも喜んでもらえているところもあると思いますし。
それに、昔から来てくれているお客さんで、サファイアがなくなったら寂しいと思ってくれる方がいるっていうのは励みになりますね。
喫茶店時代から数えたら40年間、ずっと飲食業をしていますが、続けるために何かをしてきたわけでもないですし、ただ時が経っちゃったって感じです。
でも改めて振り返ると、でもその間、業態を変えたり店舗を増やしたりと変化はしているんですよね。その都度、対応をしていたら40年経っていたって感じです。
ただ、今はまだいいけれど、今後自分に何かあったらということも考えてしまいますね。
お店をなくすことは、自分としても残念ですし、お客さんの中にも寂しいと思ってくれる方がいるようなので、後継者ということも考え始めています。
うちの子供は、やらないんじゃないかな?向いていないと思います。飲食業をやる人はある程度、人が好きじゃないとできないような気がしますし。
あれ?でも自分はあんまり人好きじゃないですね(笑)よく続けてこれたな(笑)
どちらにせよやる気になった人じゃないと。何でもそうですが、仕事は無理にやらせても意味がないと思いますね。
20年前に通っていた時と同じような雰囲気と、変わらないマスターの対応で、すっかり昔に戻ったような不思議な感覚でした。一度建て替えられ、店舗が移転した時もあったサファイアですが、カウンターの椅子は、バーにするときに買ったものを今でも使っているそうです。
たくさん変わったことがあるのかもしれないけれど、変わらないと感じることで得られる安心感のようなものを感じつつ、マスターの言葉の端々から、なんとなく人生のようなものを考えさせられた取材でした。
取材場所
サファイア 〒340-0015 埼玉県草加市高砂2丁目18−5
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