最近は、草加の近くにいる人たち同士で何かを始められるような気がしている
- 2020年10月4日
- 加藤敦
草加市青柳にある「カトーエンゲー」では、住所の詳細を公開せず、主にインスタグラムのDM(ダイレクトメッセージ)から予約を受付け、植物を販売しています。愛好家から、アガベやユッカなどエキゾチックな植物を高く評価されていて、遠方からもお客さんが多く訪れている場所です。週末はたいてい予約が入っているという園芸家の加藤敦さんに、この商売を始めることになったきっかけや、今、思うことについてお聞きしました。
園芸を始める前のこと
実家はこの近くで、ずっと草加に住んでいます。ただ中学から東京の私立中学に進学したので、学生の頃は都内で遊ぶことが多かったですね。
大学までエスカレーター式で進学できる付属校だったのですが、勉強はあまりしていませんでした。なので併設の大学に進学できず大学受験をしました。実家がデイサービスをしていたので、家の仕事を手伝うことも想定して、社会福祉学科に入学しました。
けど、大学にはほとんど行かなかったんです。大学ではサッカーのサークルに入っていて、そのためだけに行っていたような感じでした。2年くらいかな?ずっと一年生だったと思いますが、その辺りで中退しました。その後、家業のデイサービスの仕事を手伝いましたが、なんか違うなと思ってすぐに辞めてしまいました。
それから25才くらいから、実家でやっている水道屋の仕事をずっと続けていました。この植物の仕事を始める前まで、10年以上はやっていたと思います。
知り合いが増えてくるにつれ、怖くなった
学生の頃は、みんなを引っ張るような存在で「みんな仲間に入ろうよ」と言って、色々な人に声をかけているような人でした。いわゆる目立ちたがりだったのかもしれません。
今の印象とは違うのかもしれませんね。最近知り合った人からは、物静かな人というイメージを持っているようなことを言われたりしますので。
なので学生時代を知る人に「つまらない人になったな」なんて言われたこともあります。笑
当時は音楽にハマっていて、西麻布のクラブに、たまに行っていました。そのクラブでは、毎週金曜日はハウスやテクノといった自分の好きなジャンルの曲が流れていたので。
そこでは営業時間が終わったら掃除をするという条件で、タダにしてもらっていました。朝までいたので、当時可愛がってくれていた年上の人たちに、青山のファミレスで朝食を奢ってもらったりしていましたね。
その後、月に一度、新宿のクラブでDJをしていた時もありました。お小遣い程度ですが、報酬もいただいていました。2年くらいやっていたと思います。当時、自分の周りには、家ではやっているけどクラブでDJをやったことがないという人がたくさんいたんですよ。もったいないじゃないですか。だから自分がクラブでやることを勧めたり誘ったりしていました。
その中には、今でもDJを続けている人もいます。誘った自分が今はこんなことをしているんですけどね。笑
青梅のキャンプ場を借りて、山フェスを企画するなんてこともしていましたね。人がたくさん来ることを想定して、原宿のカレー屋さんなど、飲食店に出店の依頼をしたり、大きなスピーカーを借りて設置したりと、割と大掛かりに準備していたんですよ。
でも、予定していたよりも人が集まらなかったんです。カレー屋さんなど出店してくれた人たちには本当に申し訳ないことをしました。山フェスは、以前、同じ場所でフェスをやっていたのをみて「やりたいな」って思っちゃったんですよね。
そうやって大がかりなことをしていると、色々な知り合いが増えていきました。それまでは、知り合いが増えるのも楽しかったし、あんまり怖いと思ったことはなかったんですけど、そのあたりから急に怖くなっちゃったんですよ。
知り合う人たちが、みんな気持ちのいい人たちばかりで、自分に嫌悪感を抱くようになっていったんです。自分はそんなに気持ちのいい人間ではないんじゃないかって。
それから、新しい知り合いを増やすようなことはしなくなりました。と言っても、塞ぎ込んだという感じではなく、それまでの知り合いとは、たまに交流を続けていましたけれど。
家を買ったのを機に、植物に興味が出てきた
5年ほど前に、この近くに家を購入しました。それで家に観葉植物をおきたいなと思ったのが、植物を触るようになったきっかけです。なので、今、アガベやユッカなどの植物を育て始めてから5年くらいです。
初めは、どうやって育てたらいいかわからないじゃないですか。育て始めた当初、園芸店でアガベを購入した際に、店員さんから「ネットで調べてください」と言われたことがあって、その時は正直カチンときたんですよね。説明を怠っているような気がして。でも、今考えると、それってある意味あっているというか、植物の育て方に正解はないんですよ。置く場所や、気候などの条件によって、育て方が変わってくるんです。
趣味でやるような規模を超えるほど、たくさん育てるようになったのは、種子から育てたことも関係しているかもしれないですね。趣味でアガベを育てていると、だんだん大きなものが欲しくなったりするんですよ。でもそういったものは買うと10万円くらいするので、なかなか買えない。でも種子なら安いから買える。じゃあ種子から作ってみようと思って育て始めるようになりました。種子は、ネットで海外から購入するのですが、少量では売っていないし、海外から購入するので送料もかかる。それでついつい大量に買ってしまうんですよね。
そうして、ある程度の量の種子を撒き「生きているからやらなければ」というのを続けていたら、増えていきました。趣味の延長でネット販売などをしていた時もありましたが、だんだん規模が大きくなってきたので、2年前に開業したという感じです。
もちろん失敗もたくさんしてきましたし、その中で植物を育てることに「正解がない」こともわかってきました。まだまだだとは思いますが、この5年で、春夏秋冬それぞれの時期を経験できたのは、開業した今となっては、よかったなとは思います。
人との歯車が合うようになってきた
知り合いの紹介で、最近、美容室内に置くグリーンのスタイリングを始めました。その美容院はチェーン展開されていて、そのうちの数店舗を任せていただくことになりました。今まで、ここで育てたものを売るだけだったので、新しい試みです。月に一度、メンテナンスにいくのですが、植物がおかれる環境が今より良くない中で、どう育てていくか?という新しい挑戦なので、楽しんでいます。
美容室の方も自然に紹介していただいたのですが、最近になって、近くに住んでいる家具職人やカバン屋さんやデザイナーさんと、自然とつながるようになってきたんです。
新しい人と知り合うことが怖くなってから、知らない人と接することを避けてきましたが、最近知り合っていく人たちは、自然に波長の合う人が、合うだろうという人を紹介して繋がっているような感じがします。
昔は都内へ出て表現するということをやってきましたけど、わざわざ都内に出なくても、今は近くにいる人たち同士で、何かを表現したりすることを始められるような気がしているんですよね。
植物も動物も一緒で、買う責任がある
一般的に、アガベは「締めて育てる」と言われています。「締める」ということを単純に「水分を控える」という捉え方をされがちなのですが、自分はもっと自由に育てています。
自分が育てるアガベは、適度に水分を含んでいるのですが、健康的で顔色がいいって言われているんです。それが正解と言いたいわけではないんです。でも最近デザイン先行で植物を作ったり、気軽に買ったりしている人をたまに見かけるのですが、その感覚が、自分とは少し違うなと感じます。
園芸店で売られているアガベは仮の姿なんです。そこから、どのようにしていくかを自分で考えて育ててくれる人に買って欲しいと思っています。こんなことを言うと、ハードルを上げてしまうのかもしれませんが、植物も動物と一緒で、買うのであれば責任を持って欲しいなっていつも思っています。
自分もたくさん失敗もしましたし、何が正しいかなんて5年かそこらじゃわからないなって思うんですよね。だからこそ、長く育て続けている人はすごいなって思っているんです。
控えめながら落ち着いた口調で思いを伝える様子からは、目立ちたがりだったと言う昔の姿は全く感じられませんでした。「ただ好きなんですよ」と繰り返し言っていた加藤さん。人とも植物とも、心地よい距離感で接することが、実は豊かなことなんじゃないかと、その様子を見て考えさせられました。
インタビュー場所
カトーエンゲー 〒340-0002 埼玉県草加市青柳
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